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写真家が持つ水中カメラのすぐそばで、サドルドシーブリーム(Oblada melanura)の群れが泳いでいる。最新の研究で、タイ科の魚2種がダイバーを色で識別できることが示された。(PHOTOGRAPH BY ROBBY FONTANESI, GETTY IMAGES) 魚たちが個々のダイバーを装備の色で見分けられることを示唆する研究が、2月19日付けで学術誌「Biology Letters」に発表された。これは人間のダイバーも同じだ。顔や体が装備で隠れている場合、色で互いを認識することが多い。 ドイツにあるマックス・プランク動物行動研究所の行動進化研究室を率いるアレックス・ジョーダン氏は、20年近くにわたって野生の魚類を研究するなかで、研究対象の魚がジョーダン氏や同僚を認識し、付いてくるようになったと感じることがあった。 「魚が私たちを認識しているとはっきりわかったことが何度もあります」
シリアのハマ遺跡で見つかった4500年前のガラガラの欠片を手に取る考古学者のメッテ・メアリー・ハルド氏。(PHOTOGRAPH BY JOHN FHÆR ENGEDAL NISSEN, THE NATIONAL MUSEUM OF DENMARK) 約4500年前にシリアで作られた粘土製のガラガラは、幼児を「楽しませ、その気持を落ち着かせる」ために設計されたものであったとする新たな研究結果が発表された。デンマーク国立博物館の考古学者メッテ・メアリー・ハルド氏らは、4月30日付けで学術誌「Childhood in the Past」に発表された論文で、1930年代にシリアのハマにある古代の墳丘で発掘され、その後デンマーク国立博物館に保管されていた遺物について記述している。 「わたしは手が小さい方ですが、このガラガラについている持ち手は、わたしにさえ小さすぎます」とハルド氏は言う。「ですから、
2億人以上を対象にした24の研究を分析した結果、大麻使用者の心血管疾患による死亡リスクは非使用者の2倍を超えることが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY REBECCA HALE, NATIONAL GEOGRAPHIC) 米国で大麻(マリファナ)が主流になるにつれて、その健康リスクを示唆する研究が増加している。すでに精神症や統合失調症のリスクが指摘されているが、新たに心臓への影響を指摘するレビュー論文が6月17日付けで医学誌「Heart」に発表された。過去に行われた24の研究のデータを分析した結果、大麻の嗜好目的での使用が「心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡の増加」を含む重大な心血管トラブルのリスクの大幅な増加に関連していたと、論文の最終著者であるフランス、トゥールーズ大学病院の臨床薬理学者エミリー・ジュアンジュス氏は述べている。 米国を含む世界中の2億人の健康データを分析し
科学者たちは家畜と人間の関係を定義しようとしている。新たに提案された定義では、イヌやトコジラミは「家畜」であり、ウマやブタは「家畜」ではない。(PHOTOGRAPH BY MARK STONE, NAT GEO IMAGE COLLECTION) あなたのペットのパグは、間違いなく家畜化したイヌだ。牧場にいるウシも家畜に見える。では、家と外を行き来しながら暮らし、ありがた迷惑なプレゼントを家に持ち帰るネコはどうだろう? ネズミやトコジラミのように、家にすみ着いて私たちを困らせる動物は? 家畜化とはどのようなことで、動物はどうなったら「家畜」と言えるのか。5月12日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された、家畜化の新たな定義を提唱した論文が物議をかもしている。 「家畜化の定義について合意されていることは何もありません」と、論文の筆頭著者で、米マサチューセッツ大学チャン医
きゃしゃな体つきのカンクウルウ・モンゴリエンシスが、白亜紀のモンゴルを歩いていた際の復元図。ティラノサウルス上科に新たに加わったこの「モンゴルの竜の王子」の発見は、ティラノサウルス・レックスの起源に光を当てる。(Illustration by Julius Csotonyi) ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex、Tレックス)は、肉食恐竜の象徴的な存在だ。骨をもかみ砕くこの巨大な恐竜は体長約12メートル、体重約9トンもあり、恐竜時代の最後を飾った巨大な肉食恐竜として際立っている。Tレックスがなぜこれほど巨大で強力になったのかは、多くの謎に包まれてきたが、その空白を埋める小型の新種ティラノサウルス類が見つかり、2025年6月11日付けで学術誌「ネイチャー」で報告された。(参考記事:「Tレックスの噛む力、車も粉砕するパワーの仕組み」) ティラノサウルス上科の系統樹に加
ctDNA検査は、従来の画像検査よりも早くがんの再発を見つけることができ、医師や患者が治療法を決める上で重要な情報が得られる可能性がある。(PHOTOGRAPHY BY ARTICO, GETTY IMAGES) 米国コネチカット州スタンフォード在住のジェニファー・フィーンストラさんは、5年前に進行性で悪性度の高い肺がんと診断された。米エール大学がんセンターで右肺の一部を切除する手術を受けた後、4回の過酷な術後補助(アジュバント)化学療法に耐え、その後3年間の追加投薬を受けた。 その間、定期的にCT検査を受けていたが、幸い、再発は見られなかった。現在、彼女は寛解(症状や兆候が消えた状態)となっているが、たとえ腫瘍が再発してもしばらくはCT検査では見つからないことを知っている。 実は、腫瘍に由来する物質は、画像検査で腫瘍が検出されるずっと前から体内に現れている。だから医師たちは、再発した腫瘍
イングリッド・ガウプさんが干し草を編み、ブーツの断熱材をつくっている。これは、サーミ人が何世代にもわたって用いてきた技術だ。イナリ・サーミ語を保存する取り組みと同様、このような慣習は先住民の知恵を受け継ぐ助けになっている。(PHOTOGRAPH BY ERIKA LARSEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 1996年、言語学者のマルヤ・リーサ・オルトゥイス氏は難しい選択を迫られた。生まれたばかりの娘にフィンランド語で話しかけるべきか、それとも、消滅の危機にある先住民の言語イナリ・サーミ語で話しかけるべきか。 当時、イナリ・サーミ語の話者は数百人しか残されておらず、ごく一部の家族を除き、ほとんど耳にすることはなかった。特にオルトゥイス氏がフィンランド最北のラップランドから引っ越していたことを考えると、何百万人もの話者がいるフィンランド語のほうがより簡単な選択だった。
父親になることは、心と体の健康にいくつもの恩恵をもたらす。(Photograph by Maskot, Alamy Stock Photo) 父親になる代償はよく知られている。経済的な責任や、それを負うストレス、睡眠不足、自由時間の減少などだ。その一方で、子育てというこの上なく重要な役割を担うことには、実は心にも体にも恩恵が多い。 もちろんそれは、母親やそのほかの保護者・養育者にも当てはまるが、特に父親になると人生にどんな(主に良い方向への)変化が起こるのかを見てみよう。(参考記事:「母の日の陰で:「父の日」の起源と今」) 心の健康 親になると、思いやりの心が増し、人生が充実し、仕事の業績やワークライフバランスに関する満足度が高くなるなど、男性の精神的な健康に多くの好ましい影響を与える可能性がある。 「自分の子どもの世話をし、一緒に時間を過ごすのが、すべての親、特に父親の感情面への恩恵と関
メキシコ原産のメキシコサラマンダーは、野生では絶滅の危機にある一方、実験室の中ではアンチエイジングや傷の治癒の秘密を少しずつ明かしつつある。(PHOTOGRAPH BY RAQUEL SAGGIN) 鋭い枝に尾を切られたとき、あるいは捕食者との戦いで腕を失ったとき、メキシコサラマンダーはじっと待つ。数週間もすれば、失った体の一部は、まるで元通りに再生される。科学者たちは長年、この魔法のような再生のしくみを探り、いつか人間にも応用できるのではないかと考えてきた。そしてこのたび、その詳しいメカニズムを詳しく解き明かした論文が、6月10日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された。 今回の研究で、特定の酵素(人間にも同じものがある)がレチノイン酸の量を調整し、部位の再生を正確に促していることが明らかになった。さらに、四肢の大きさをコントロールする遺伝子もわかった。(参
マラソンによって負荷がかかるのは筋肉だけではない。脳もまた代謝の限界まで追い込まれる。新たな研究では、極限まで持久力が試される運動では、脳が自らの脂肪を燃料として使っている可能性が示された。(PHOTOGRAPH BY BEN STANSALL, AFP/GETTY IMAGES) 長距離ランに出かけようとシューズを履いたとき、スペイン、バスク大学の神経科学者カルロス・マトゥーテ氏は、科学的な大発見をしてやろうと考えていたわけではない。しかし、1キロ、また1キロと走る中で、氏の頭の中にはある疑問が繰り返し浮かんできた。「ためたエネルギーを使い果たした場合、人はその後、どうやって意識を保ったままゴールまでたどり着いているのだろうか?」 この好奇心に導かれた氏は、驚くべき答えにたどり着いた。2025年3月24日付けで学術誌「Nature Metabolism」に発表した論文によれば、マラソンの
調査船ファルコー2号に乗っていた科学者チームは、このイカの大きさや戦いの跡など、重要な特徴を観察できた。(VIDEO BY ROV SUBASTIAN / SCHMIDT OCEAN INSTITUTE) 米シュミット海洋研究所の調査船ファルコー2号がまたもや驚きの報告をもたらした。南極周辺の極寒の海のみに生息する希少な深海イカであるナンキョクテカギイカ(Gonatus antarcticus)を目撃したのだ。泳ぐ姿を撮影したのはもちろん、人類が生きた姿を見たのもこれが初めてだ。(参考記事:「【動画】深海で初、巨大イカのダイオウホウズキイカの撮影に成功」) それは2024年のクリスマスイブのこと。ファルコー2号の科学者と乗組員は、南極海の一部であるウェッデル海の水深約3000メートルに広がる未探査のパウエル海盆に遠隔操作無人潜水艇(ROV)を送り込む予定だった。ロレックスの「パーペチュアル
鳥の中には、都市環境に生息することで攻撃性が増すものもいる。このヨーロッパコマドリのそのひとつだ。(PHOTOGRAPH BY SAM HOBSON/ NATURE PICTURE LIBRARY) 渋滞、騒音、息が詰まるようなスモッグ。都会の生活にストレスや不安を感じる人は少なくない。たが、そんな圧迫を感じるのは、人だけではないようだ。都会にすむ鳥は、地方にすむ鳥よりも攻撃的になることを示す研究が増えている。 4月1日付けで学術誌「Animal Behavior」に発表された研究によると、エクアドルのガラパゴス諸島にすむガラパゴスキイロアメリカムシクイ(Setophaga petechia aureola)という鳥は、交通量の多い道のそばにすむ個体のほうが、道路から離れた場所にすむ個体よりも、侵入者に対して攻撃的だという。 都市生活の影響を受ける鳥はこれだけでなく、怒れる都会の鳥を扱う研
市販のアレルギー薬や睡眠改善薬に広く使われている抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンは、長期にわたって日常的に服用すると認知症のリスクを高める可能性がある。推奨用量を超えて大量に服用した場合も有害な影響がありうると専門家は警告する。(PHOTOGRAPH BY EHSTOCK, GETTY IMAGES) 季節性アレルギーや不眠、かぜの症状への備えとして、「ジフェンヒドラミン」という成分の入った市販薬を家に常備している人は少なくないだろう。しかし、この薬を使い過ぎないよう、医師たちが以前から警告していることは、あまり知られていないかもしれない。 ジフェンヒドラミンは、数多くの市販薬に有効成分として含まれている。もとはアレルギー症状の予防と治療のために承認された薬だが、現在では、乗り物酔い、不安、かぜの諸症状、吐き気、不眠、さらにはパーキンソン病など、幅広い目的に使われるようになっている。 ジ
オオメジロザメは攻撃的で沿岸部に暮らす傾向があるため、人々に恐れられている。今回、体長約2.5メートルのメスが7200キロ超という記録的な長距離を移動していたことが明らかになった。(PHOTOGRAPH BY RYAN DALY) 2024年夏、ガーナの漁師トゥラワ・ハキームさんが、同じ西アフリカ沿岸部に位置するナイジェリアの都市ラゴスの沖合で漁をしていたとき、乗組員がオオメジロザメを釣り上げた。ハキームさんはこのとき、木製の漁船に引き上げられたこのサメが、ある記録を塗り替えようとしていることを知らなかった。 体長約2.5メートルのこのメスは、少なくとも7200キロを超える壮大な旅を成し遂げていたのだ。知られている限り、この種では最長の移動距離で、オオメジロザメが2つの海を泳いだことが記録された初めての事例だった。5月8日付けで学術誌「Ecology」に発表された研究論文によれば、このサメ
中国、北京から南へ約200キロメートルの満城区にそびえる陵山(りょうざん)。2000年以上前、その東側の斜面から数千トンもの岩が削られ、中山王の劉勝(りゅうしょう)と妻の竇綰(とうわん)の遺体を納める複雑な陵墓が築かれた。 その後2000年間、奇跡的に盗掘を免れたこの「満城漢墓(まんじょうかんぼ)」は1960年代に発見され、その技術だけでなく、目も眩むばかりの副葬品が考古学者たちを驚かせた。夫婦の遺体は高貴な玉を金の糸でつづった「金縷玉衣(きんるぎょくい)」に包まれていた。この葬服は現在では中国最高の国宝の1つとされている。 北方の領主 劉勝の父の景帝(けいてい)は、秦に続く中国史上2番目の王朝である漢王朝(紀元前202年~後220年)の第6代皇帝だった。紀元前154年、反乱に悩まされた景帝は、劉勝を帝国北東部の辺境地域、中山(ちゅうざん)に派遣して統治させた。(参考記事:「楚の考烈王の墓
底引き網漁が海底に与えた影響を空から撮影した。(SILVERBACK FILMS AND OPEN PLANET STUDIOS) 破滅の雲が迫るなか、その道筋にいる生きものたちは必至に逃げる。 しかし、雲の動きは速く、どんどんと近づいてくる雲にやがて全ての生きものが飲み込まれていく。 パニック映画のように聞こえるかもしれない。しかし、これは底引き網漁を映した希少な映像の一場面だ。底引き網漁とは、重い鉄製の網を海底に落とし、それを船で引いて魚を獲る漁法。米国では主にマダラ、モンツキダラ、オヒョウなどの一魚種を狙うにもかかわらず、海底付近にいる生きもの全てを区別なく捕え、不要なものはあとで海に投げ捨てるという極めて破壊的な漁法だ。 「魚を獲るのに、これ以上にムダな方法は考えられません。捕えた獲物の4分の3以上は捨ててしまうのですからね」と、著名な自然史ドキュメンタリーの制作者であるデビッド・
NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)のデータに基づいて描いた太陽系外惑星K2-18b。K2-18bは地球の約8.6倍の質量を持ち、K2-18という比較的冷たい矮星のハビタブルゾーン(生命が存在しうるエリア)を公転しており、地球から約120光年離れた場所に存在する。新たな研究によると、この惑星の大気中にはジメチルスルフィド(DMS)という分子が存在する可能性があると示唆されている。(Illustration by NASA/ESA/CSA/Joseph Olmsted, STScI) 2020年、科学者たちは金星に生命の兆候を発見したと主張した。地球の微生物が作り出すホスフィン(リン化水素)と呼ばれる悪臭ガスの痕跡だ。しかし、この主張にはすぐに異議が唱えられ、数年経った今でも論争が続いている。そして今、また別の悪臭ガスが地球外生命体に関する新たな議論を巻き起こしている。今回の
イソギンチャクの触手には毒針が備わっているのにもかかわらず、共生するクマノミ類が刺されないのは、クマノミの体表にあるシアル酸という糖分子が成長に伴い減少するためだということを、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループが発見した。シアル酸は毒針の発射のトリガーで、イソギンチャクもシアル酸を持たず、自らを刺さないようにしていることも分かった。「共生の仕組みを理解する手がかりになる」としている。 イソギンチャクの触手には刺胞(しほう)と呼ばれるカプセルがあり、刺激を受けると毒針を発射する。ヒトのみならず、多くの魚も刺される。イソギンチャクの種類によっては、重症になることもあるため、扱いに注意が必要だ。しかし、アニメーション映画などでもおなじみのクマノミはなぜ刺されずに、イソギンチャクをゆりかごのようにして共生できているのか分かっていなかった。 OIST海洋生態進化発生生物学ユニットのヴィ
研究者らは長い間、天の川銀河は40〜50億年後にアンドロメダ銀河と衝突すると考えてきた。このイラストは、40億年後の夜空を描いたもの。最初の接近の後、アンドロメダ銀河が潮汐力によって引き伸ばされ、天の川銀河もまた歪んでいる様子が示されている。(Illustration by NASA, ESA, Z. Levay and R. van der Marel (STScI), and A. Mellinger) 1世紀以上にわたり、天文学者たちは、われわれがいる天の川銀河の隣にある巨大なアンドロメダ銀河が、こちらに向かって猛スピードで接近してくる様子を観測してきた。ハッブル宇宙望遠鏡を使った近年の観測結果も、長く語られてきた予言を裏付けているかのように思われた。つまり、今から40〜50億年後、ふたつの銀河は衝突し、融合してとてつもなく大きな新しい銀河ができるというものだ。 しかし、このふたつの
生態学者のバーバラ・クランプ氏は、別の研究プロジェクトの最中、シドニーのチャーリー・バリ保護公園で、オウムたちが水飲み場で水を飲むために列をつくっているのを発見した。(VIDEO BY B. KLUMP ET AL/BIOLOGY LETTERS 2025) オーストラリアに暮らすオウムの仲間のキバタン(Cacatua galerita)が「鳥頭」という言葉に新たな意味をもたらしている。数年前、キバタンはごみ箱を開けて餌を探すようになり、最終的に、この行動は何十もの地域に広まった。そして今、シドニーのある公園で列をつくって順番を待ち、水飲み場の水道から直接水を飲むようになったと、2025年6月4日付けで学術誌「Biology Letters」で報告された。 「この鳥はいつも私を驚かせてくれます」と、論文の筆頭著者でドイツ、マックス・プランク動物行動研究所の行動生態学者バーバラ・クランプ氏は
2022年、イラク南部のバスラ近郊で、古代シュメールの都市エリドゥの遺跡を発掘する考古学者たち。(Alla Al-Marjani/Reuters/GTRES) エリドゥは、知られている限り世界最古の文明で、紀元前4000~1000年頃に現在のイラクで栄えたシュメール文化の基礎となった都市だ。 エリドゥの重要性は、歴代のシュメール王の名が並ぶシュメール王名表に記されている。紀元前2000年頃まで、さまざまな版の王名表がくさび形文字で作成されていた。表の後半部分に記録されている都市名と王朝名は、歴史資料でも確認できる。 表の前半部分には、神話上の人物名も含まれ、「大洪水(地域的な災害の可能性も、旧約聖書の創世記に書かれている大洪水に関連している可能性もある)」の前に存在していた初期の王国の都市名が刻まれていた。 その最初に書かれている都市がエリドゥだ。「王権が天から下った後、王権はエリドゥにあ
英ノーフォークでさえずるヨーロッパコマドリ(Erithacus rubecula)。鳥のさえずりは、うつや不安を軽減することを示した研究がある。(PHOTOGRAPH BY DAVID TIPLING, NATURE PICTURE LIBRARY) 科学者たちは、自然に触れると心が癒やされることを知っている。屋外に出れば体が活発になり、森に入ればストレスや心拍数、血圧が下がる。鮮やかに咲きほこる野の花々を見れば、畏敬の念が湧いてきて、自分という存在や頭の中で渦巻く問題などは途方もなく大きなものの一部にすぎないと思わされる。そして、鳥の歌声にも、私たちの脳を落ち着かせる効果があることが科学的に示されている。 しかし、鳥のさえずりが特別に感じられるのはなぜだろう? 「社会的な動物である私たちは、生きものとつながり合いたいと思うようにできているのです」。そう話すのは、米オーバリン大学の社会・環
インド、カルナータカ州マイソールの市場では、さまざまな種類のレンズ豆が売られている。インド料理ではレンズ豆は定番の食材だ。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 近年、豆類は栄養豊富な食材として注目を集めている。しかし、実際に食べられている豆の種類には偏りがある。インドや中東などでは、さまざまな豆類が主要な食ベ物となっているが、米国はそうではなく、料理にする場合でもビーン類(インゲン豆など)ばかりが使われる傾向にある。日本でも豆類の摂取量は大豆とその加工品が大半を占めている。 一部の専門家は、エンドウ豆やレンズ豆にもスポットライトが当てられるべきだと主張する。それらもタンパク質、食物繊維、抗酸化物質を豊富に含み、高い栄養価を誇っている。 2022年にイタリア、カメリーノ大学の研究者らが学術誌「Pharmaceutic
クマノミの一種であるクラウンアネモネフィッシュ(Amphiprion percula)は特定の状況下で成長をコントロールできる。最新の研究は海洋熱波を乗り切るため、体を小さくしている可能性を示唆している。2023年の海洋熱波中にキンベ湾で撮影。(PHOTOGRAPH BY MORGAN BENNETT-SMITH) 博士課程の学生であるメリッサ・フェルステーフ氏は、計測した値を見て、何か問題があるのではないかと心配になった。その魚が縮んだようだったのだ。「彼女は3回計測していました」と、共同研究者で英ニューカッスル大学の海洋生物学者テレサ・ルーガー氏は振り返る。「彼女は数値に確信を持てるよう、複数の人に同じ計測を依頼していました」 しかし、値は正確だった。フェルステーフ氏らは、海洋熱波中にクマノミの一種であるクラウンアネモネフィッシュ(Amphiprion percula)の体長が短くなっ
シャーレで培養される幹細胞。幹細胞は、病気で損傷した組織を発生・修復させる細胞を含め、体内のあらゆる種類の細胞に分化できる。(PHOTOGRAPH BY MASSIMO BREGA, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 1986年の映画『スター・トレックIV 故郷への長い道』には、船医のドクター・マッコイが透析を受けている患者に1錠の薬を飲ませると、たちまち新しい腎臓ができてくるという場面があった。これは再生医療の見果てぬ夢だが、実現するのはなかなか難しい。 病気によって心臓や肺などの重要な臓器が傷ついた場合、医師はせいぜい損傷の悪化を食い止めることしかできない。けれども今、30年におよぶ試行錯誤の末に、患者の体内の幹細胞を活性化させて臓器を修復させる治療法が実現する可能性が高まってきた。 幹細胞は、機能を持つ細胞のもとになり、組織の成長や修復を担う細胞を生み出す。米国の非営利研
かつて、地中海は塩と石膏が広がる乾いた大地だった。そこに、洪水が押し寄せた。(PHOTOGRAPH BY NASA/HERITAGE IMAGES/GETTY IMAGES) 600万年前の地中海は、現在の美しい景観とはほど遠い姿だった。「海」と呼べるものですらなく、地殻変動によってジブラルタル海峡には山脈が隆起し、地中海は大西洋から切り離されていた。水が絶えず流入しなければ、灼熱の太陽によって海水は蒸発する。その結果、塩分濃度の高い湖がいくつか点在するだけとなり、それらの周辺には塩や石膏に覆われた地が延々と広がった。 地中海が干上がったとされるこの現象は、現在、科学者の間で「メッシニアン塩分危機」と呼ばれている。中新世の末期、地中海はほぼ死滅した状態だった。 さて、530万年前のある日、この山脈を歩いていたとしたら、ちょろちょろとした水が流れている、という異変に気づいたかもしれない。山の
臓器移植のドナー不足を解消するために、ブタの臓器を役立てることはできるか? 研究の最前線を追い、実際に移植を受けた患者たちの声を聞く。 そこに立ち入るには入念な準備が必要だった。事前に説明書を渡してほしいと思ったほどだ。まず警備員の詰め所で署名をする。入り口で靴を脱ぎ、ロッカールームに入ってシャワーを浴びる。丈の長い手術用ガウンを着て、膝まであるゴム長靴を履き、最後に安全ゴーグルを装着する。 「いろいろと面倒をかけて、すみません」。案内役のビョルン・ピーターセンが前に進むよう手招きした。「病原体が入らないよう、とても気をつけているので。大丈夫、すぐに慣れますよ」 私はその2時間ほど前に米国中西部の某都市(都市名は伏せるよう求められた)のホテルで目を覚ましたのだった。そして今、ドイツ生まれの科学者であるピーターセンの後に付いて、この極秘の研究施設の廊下を進んでいった。 飼育施設に入ると、何か
日本に広く分布する小さな生き物が、人と自然の共生に貢献していることがわかった。 ネズミと聞くと厄介者と考える人は少なくない。だが、福山大学生物科学科教授の佐藤淳さんが率いるチームが手がけたアカネズミの研究からは、そんなイメージを覆す姿が見えてきた。 里山生態系におけるアカネズミの影響を調べようと考えた佐藤さんは、人間が活動するハッサク畑とアカネズミがすむ森が隣接する瀬戸内海の因島に着目。胃の内容物ではなく、糞に含まれる食べ物のDNAを解析するというこれまでにない手法で、このネズミの食性を季節による摂取生物の違いに至るまで調査することに成功した。 アカネズミは、冬に備えてブナ科の木の実を森の中に分散させてため込む習性があり、それが種子の拡散につながることは生態学的に知られている。DNAの解析はこの知見と見事に一致したが、さらに、アカネズミはブナ科に被害を与えるマイマイガを多く食べることもわか
のみのような歯を使い、ものの数時間で1本の木をかじり倒すビーバー。樹皮を食べ、残りは巣やダムの材料として使う。(PHOTOGRAPH BY RONAN DONOVAN) 初めは毛皮を珍重され、その後、厄介者として扱われてきたビーバー。だが今、気候問題を解決するヒントを与えてくれると注目されている。 火は強風にあおられ、干ばつで乾ききった森に勢いよく燃え広がった。炎は轟音(ごうおん)を立てて森を走り、道路や川を越えてロッキー山脈国立公園の歴史的建造物や民家を焼き、2人の命を奪った。焼損面積は約8万ヘクタール。2020年10月21日に米国コロラド州北部で発生したこの「イースト・トラブルサム」火災は、同州史上で2番目に大きな火災だった。 この火災で焼け残った唯一と言えるものが、ビーバーの池だった。驚くには当たらない。ビーバーといえばダムを造って水をためる、げっ歯動物だ。だがビーバーがもたらす恩恵
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